新海誠という名前を聞いた時、私がとっさに思い出したのは、「ほしのこえ」という作品でした。
当時、学校で「このアニメ、この監督がほとんど一人で作ったんだよ!小説も感動するから読んで!」と、あるクラスメイトに小説版を押し付けられたのです。
その日のうちに読みましたが、その奇妙で青臭い純愛ストーリーに、不思議な読後感を覚えて、「うん、面白かったよ」とその借主に翌朝本を返したのを覚えています。
そのクラスメートはよほど小説の世界観に耽溺していたらしく、小説の主人公と同じ、某省庁大学校を受験するとまで豪語しておりました。まぁそれぐらい新海作品はティーネージャーに対して影響力が強いということです。
当時「最終兵器彼女」みたいな独特な世界観のアニメが多かったですが、「ほしのこえ」はそこらへんの作品とよく似たテイストがあった記憶があります。
今はyoutubeでいくらでも見れますが、当時は当然そういうものはありませんでした。
それでも私はなんとか「ほしのこえ」の動画を入手して見ていたのです。2002年当時のことですから、もう本当に大昔のことですが・・・
キャラクターの作画の出来はともかく、その背景の綺麗さと全体的な世界観は、それまで見たことのないアニメの風景で非常に魅了されました。
雲や空の描き方が独特な感じなんです。退廃的な街の電線や電信柱などの風景はエヴァンゲリオンで見たことがあるような感じでしたが、これを一人で作ったというのはさすがに衝撃的でした。
しかしこの「ほしのこえ」という作品、そのストーリーについては「君の名は」と同程度に賛否あったようですね。
私は「君の名は」を見た時、この作品を若いころに見たかったなと少し思いました。今見てもそこそこ楽しめますが、十数年前の幼かった頃に「ほしのこえ」を読んだ時の勢いで、この映画を見ていたら、もっと違う感想を持ったに違いありません。
しかし新海誠という人物は、どれだけ年を重ねても変わらない世界観の作品を作り続けているというのは、非常にたぐいまれな才能の持ち主であることは言うまでもないでしょう。
ちなみにこの「ほしのこえ」という作品、高畑勲の「アニメーション、折に触れて」という著書の中で言及されていて、それはそれはボロクソに書かれていました。一部では有名だそうですが。
あれはクリエーターとしての一種の嫉妬のようなものだったのでしょうか?
どこまで本当か分からないですが、手塚治虫が亡くなった時に、宮崎駿が寄せた手記の内容が、手塚氏をボロクソに貶す内容だったそうですね。
新海作品をめぐる賛否についても、一般の人々の感想よりはクリエーターたちの中での論争の方が激しいものがあるのではないでしょうか?そんな気がしてしょうがありません。
まだ駆け出しで無名だった新海誠の衝撃作「ほしのこえ」を10代の多感な時期に見れたことは、大事な思い出として記憶に残しています。